不妊症と漢方(東洋医学):体質からはじめる“授かりやすいカラダづくり”完全ガイド

はじめに:病院だけじゃない、“体質”から整える妊活という選択

「ホルモン治療や人工授精を続けているのに結果が出ない」「原因不明と言われて戸惑っている」——そんなとき、東洋医学(漢方)の“体質に合わせて整える”というアプローチが、あなたの妊活を一歩前に進めるかもしれません。
漢方は即効薬ではありませんが、気・血・水の巡りを整え、冷え・ストレス・胃腸の弱りなど“妊娠力を下げる日常の不調”を丁寧に改善していきます。病院の治療(タイミング法・人工授精・体外受精など)と併用できる点も大きな魅力。この記事では、不妊症の基本から体質チェック、代表的な漢方薬と注意点、生活養生まで、必要な知識をまるっと整理しました。

女性の生殖器(卵巣・卵管・子宮)の簡単な構造図

1. 不妊症の基礎知識:仕組みと主な原因

  • 定義:妊娠を望むカップルが避妊せず性生活を続けても一定期間妊娠に至らない状態。年齢要因を踏まえ、35歳以上では早めの受診が推奨されます。
  • 主な原因(女性側)
    • 卵管:性感染症や子宮内膜症による狭窄・閉塞
    • 卵巣(排卵):PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)などの排卵障害
    • 子宮:筋腫・ポリープ・内膜環境の問題
    • 子宮頸管粘液:精子を迎え入れにくい状態
    • 全身的要因:甲状腺、体重(やせ/肥満)、ストレスなど
  • 男性要因も約半数に関与します(精子数・運動率・形態・射精障害など)。
  • 治療の道筋:原因治療(薬・手術)/生殖医療(タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精)+生活改善

2. 東洋医学(漢方)の考え方:気・血・水と“体質”

東洋医学は「気(エネルギー)」「血(栄養)」「水(体液)」の巡り・量・バランスが崩れると不調が起こる、と考えます。
妊活でカギになるのは血(内膜・卵の栄養)と気(ホルモン・自律神経に関わる働き)、さらに水(むくみ・冷え)

  • 冷え・ストレス・胃腸虚弱は、妊娠力を落とす三大要因。
  • 漢方はあなたの体質に合わせて処方し、少しずつ底上げしていきます。

5つのタイプ(血虚・腎虚・瘀血・気血両虚・肝気鬱結)

3. 体質タイプ解説:こんなサインはない?

血虚(けっきょ)—“血”不足タイプ

  • サイン:手足・お腹の冷え、顔色のくすみ、乾燥肌、抜け毛・切れ毛、浅い眠り、貧血傾向、疲れやすさ、爪が薄い/割れやすい、月経量が少ない・周期長め、立ちくらみ など。
  • 背景:月経・妊娠・出産・授乳・更年期などで“血の消耗期”が多い女性に起こりやすい。

腎虚(じんきょ)—“生殖エネルギー”の不足

  • サイン:加齢・過労・睡眠不足・ストレス後の体力低下、腰膝のだるさ、冷え、頻尿・乏尿、精力低下。
  • ポイント:卵巣機能の低下や高年妊活で注目。

瘀血(おけつ)—“巡りの悪さ・うっ滞”

  • サイン:下半身の冷え、月経痛やレバー状血塊、くすみ、刺すような痛み。
  • 関連:子宮内膜症・筋腫など“うっ血”が関わる疾患に注意。

気血両虚(きけつりょうきょ)—“エネルギーも血も不足”

  • サイン:疲労感、息切れ、ふらつき、冷え、内膜が育ちにくい、卵の育ちが弱い。

肝気鬱結(かんきうっけつ)—“ストレスで気が滞る”

  • サイン:イライラ、胸の張り、月経前症候群(PMS)、頭痛、肩こり、ギザギザのBBT。
  • ポイント:ストレスケアが妊活のキーファクター。

4. よく使う漢方薬:効能・向き不向き・注意点まとめ

※ここでの漢方名は一例です。自己判断での開始・併用は避け, 医師・薬剤師・漢方専門家にご相談ください。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

  • 主眼:瘀血(血行不良)改善。冷え・のぼせ混在、月経異常、肌荒れ。
  • 向く人:比較的体力があるタイプで、下半身の冷えや血行不良のサインがある人。
  • 注意妊娠中は避ける(桃仁・牡丹皮の活血作用が強い)。虚弱体質には不向きな場合あり。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

  • 主眼:血を補い、水の巡りを整え、冷え・むくみ・貧血傾向を改善。月経不順・生理痛・立ちくらみに。
  • 向く人虚証(体力中等以下)で冷えやむくみが目立つ人。
  • 注意:胃腸が弱い人は消化器症状に留意。

加味逍遙散(かみしょうようさん)

  • 主眼:ストレス由来の気滞+血行不良に。PMSのイライラ・緊張、肩こり、冷え。
  • 向く人:体力中等以下、メンタル・自律神経症状を伴う人。
  • 注意妊娠中は避ける(牡丹皮の活血)。甘草重複にも注意。

柴苓湯(さいれいとう)

  • 主眼:消化吸収・免疫調整・抗炎症、むくみ、水様性下痢。不育症の一部で用いられることも。
  • 向く人:体力中等、喉の渇き・尿少・胃腸炎様の不調、むくみ。
  • 注意甘草の重複→偽アルドステロン症リスク。虚が強い人は慎重に。

温経湯(うんけいとう)

  • 主眼:血を補い巡りを温め、内膜環境や冷え・月経不順を整える。“ほてり+冷え”のミックスにも。
  • 向く人:虚弱寄りで下半身冷え、乾燥、ホルモンバランスの乱れ。
  • 注意妊娠中は避ける(牡丹皮)/甘草の重複に注意。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

  • 主眼:腎・生殖機能の底上げ。高年妊活で卵巣機能サポートの場面。
  • 向く人:虚弱・下半身の冷え・排尿トラブル。
  • 注意:体力十分でのぼせ傾向の人は不向き。附子含有で過量は中毒(しびれ・不整脈など)。妊娠判明後は牡丹皮由来の活血作用に留意し中止方針を専門家と確認。

併用の落とし穴:甘草
複数の方剤を重ねると甘草の総量が増え、むくみ・高血圧・低K血症の原因に。処方の重複は必ず専門家に確認しましょう。


5. 生活養生:今日からできる“授かり体質”づくり

食事

  • 温める食材:しょうが、ねぎ、シナモン、黒豆、黒ごま、くるみ、羊肉、にら、ヨモギ。
  • 血を養う:レバー・赤身魚、卵、山芋、にんじん、きくらげ、なつめ。
  • 控えたい:冷たい飲食・暴飲暴食・精製糖過多。便秘に大黄/センナ/アロエ系は妊娠初期リスク→避ける
  • 水分はこまめに、温かい汁物を味方に。

運動

  • 散歩・ストレッチ・ヨガで“巡り”と自律神経を整える。激しすぎる運動は一旦控えめに。筋力維持で基礎体温UPも。

休息・メンタル

  • 就寝・起床を一定に。スマホの夜間使用を減らす。
  • 1日10分の“何もしない時間”や呼吸法/瞑想肝気鬱結をほどく。

ツボ(妊娠判明後は刺激を避ける)

  • 三陰交(さんいんこう):内くるぶし上、指4本分の骨の後ろ。血行を促し温める。
  • 太谿(たいけい):内くるぶし後ろ、アキレス腱との間。水の巡り調整。
  • 気海(きかい):へそ下指2本分。気の巡りを高める。

入浴後に各30秒~1分やさしく押す。強すぎない圧で。


6. 基礎体温(BBT)×漢方:読み取りのコツ

  • 理想:低温期→排卵で一時低下→0.3~0.5℃上昇の高温期へ移行。
  • 低温期が高め:ストレスや炎症、肝気鬱結の可能性。
  • 高温期が低い/短い:黄体機能の弱り→当帰芍薬散・温経湯などが検討される場面。
  • ギザギザ移行:自律神経乱れ・気滞・睡眠不足など。

BBTは“今の体調の鏡”。グラフと体感(冷え、PMS、睡眠)をセットで記録し、処方調整に活かすのが漢方的。


7. ケース紹介(要約)

  • 30代女性:2回の流産歴。むくみと足だるさ、睡眠質の低下。
  • 対応:煎じ薬で水の滞りと冷えを中心に調整。1ヶ月で足のだるさと睡眠が改善、2ヶ月目に胚移植→陽性判定。その後も体調管理を継続し、無事出産

ポイントは、今のつらさ(むくみ・睡眠)から順に解くこと。体感改善=継続のエンジンになります。


女性が笑顔で赤ちゃんを抱く

8. よくある質問(FAQ)

Q1. 漢方は本当に妊活に効きますか?

A. 体質改善を通じてホルモンバランス・血流・ストレス耐性を底上げするのが漢方。個人差はありますが、生殖医療と併用することで“内膜・卵の環境づくり”を支えます。

Q2. いつから始めればいい?どれくらいで変化が?

A. 早いほど有利。**3ヶ月(卵の育つサイクル)**を目安に、生活養生+漢方を継続して体感変化を見ます。

Q3. 妊娠判明後も続けて良い?

A. 方剤によっては中止が必要(例:桂枝茯苓丸・温経湯・加味逍遙散など活血薬)。必ず医師・薬剤師に連絡し切替や中止を相談。

Q4. 併用で気をつけることは?

A. 甘草の重複に注意(むくみ・高血圧・低K血症)。サプリや市販薬との相互作用も必ず確認

Q5. 男性側にも漢方は有効?

A. 体力低下・冷え・ストレス・睡眠の質改善により、精子の質を支える目的で用いることがあります(例:八味地黄丸、人参養栄湯など)。専門家に相談を。


9. まとめ:今日から始める“授かり体質”チェックリスト

  • 冷え対策:湯船・温かい汁物・首/お腹/足首を温める
  • 食養生:血を養い、冷やさず、暴飲暴食しない
  • 運動:毎日の散歩+軽ストレッチで巡りUP
  • 睡眠:同じ時間に寝起き、スマホは寝る1時間前にOFF
  • ストレス:深呼吸・瞑想・趣味時間を“予定”に入れる
  • BBT:冷え・PMSと合わせてメモ。処方調整の材料に
  • 専門家と二人三脚:体質に合う漢方を安全に継続
  • 妊娠判明時必ず処方元へ連絡して継続可否を確認

体質別・処方の“目安早見表”(一例)

  • 冷え・むくみ+虚弱:当帰芍薬散/温経湯
  • 瘀血(うっ滞)・下半身冷え+体力あり:桂枝茯苓丸
  • ストレス・PMS・ギザギザBBT:加味逍遙散
  • 腎虚・高年妊活・下半身のだるさ:八味地黄丸
  • 水滞・むくみ・胃腸炎様:柴苓湯

※すべて体質・時期・他剤との兼ね合いで変わります。独断での開始・併用はNG

参考文献

「妊活中の方へ。不妊症に向き合う漢方と生活養生」 — 日本堂漢方薬局
https://www.nihondo.co.jp/philosophy/consultation/sterility/

「妊活に効く漢方って?私ならこーする。妊活入門番外編 東洋医学からみた妊活」 — ルナ・レディースクリニック コラム
https://www.luna-clinic.jp/column/…

「不妊症 – 悩み別漢方 – 漢方ビュー(ツムラ)
https://www.tsumura.co.jp/kampo-view/trouble/joseifunin.html

「Q17 妊活によい漢方薬はありますか?(周産期医学 52巻13号)」
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24479/peri.0000000427

「漢方不妊治療は効果なし?正しい知識と対策を解説」 — 富士堂漢方薬局(Web記事)
https://kampo-fujidou.com/2025/07/17/11881/